魅惑への誘い


あいつを追いかけて、それで全てに決着をつけるんだ。


「クラウド、まだ私の事を追いかけているのか?」
不敵な笑みを浮かべてセフィロスは尊大に言い放った。
「お前が私に追いつく事などできはしない。所詮、お前は人形なのだから」
「うるさいっ。セフィロス、お前を倒すっ」
クラウドは大剣を構えると大きく振りかぶり、セフィロスへと切りかかった。
ざくっ。
手ごたえはあった。が、それは人間の感触ではなかった。クラウドの剣に切り裂かれた本がばらばらと宙に舞う。
「ふっ、まだまだ甘いな」
クラウドの後ろでセフィロスはため息を付きながらクラウドの頭をなでなでする。完全にクラウドの事をなめきっているようだ。
「くそっ、頭なでるな、このやろう!!」
セフィロスの手を振り払い大剣を横になぎ払う。セフィロスは空中で3回転ひねりを決め、反対側に着地した。
「ふっ。私が昔お前にあれほど手取り足取り教えてやった事を何も理解していないようだな」
「なんだと」
「まぁいい。お前のその熱意に免じて、これをやろう」
しゅっとクラウドの手元に一通の手紙が飛んできた。
「私はそこで準備をして待っている。今度は逃げも隠れもしない。・・・逃げるなよ、クラウド」
そう言うが早いか、セフィロスの姿は消えた。
「セフィロス!!」
手紙を握りしめクラウドは虚空へと絶叫した。

「神羅屋敷で待っている・・・私は逃げも隠れもしない。ー親愛なるクラウドへ。偉大なるセフィロスより。」
セフィロスから強制的に貰った手紙をティファが読み上げた。
「なんかこれって絶対に罠よね」
手紙を机の上にぽいと置き、ティファは皆を見回した。
「うんうん。絶対に何かありそうだよね」
「だいたいセフィロスがまともにうちらを招待するなんて事あるはずないじゃん。」
ティファの意見にエアリスとユフィが賛成する。
「で、どうするんだ?この誘いに乗るのか?」
バレットが右腕をさすりながら言う。
「上手くいけば奴をここで倒す事ができるかもしれん。・・・勝算は少ないがな」
ヴィンセントがやる気なさそうに呟く。
「まぁ、あれだろ。要するに、行ってみるしかないって事だろ」
「うん。おいらもそう思うよ」
シドが煙草をふかしながら言い、ナナキが毛づくろいをしながら賛成した。
「・・じゃ、皆の意見は行ってみるって事でいいのね。で、クラウドの意見は?・・・って、クラウド、何してんのよ」
ティファの声に皆がクラウドに注目する。クラウドはせっせとセフィロスからの手紙をビニールコーティングして折り目や汚れが付かないようにしていた。
「いや、セフィロス直筆の手紙なんてすごい久しぶりだからな。ちゃんと保存しておこうと思って」
「あのね~クラウド。皆真面目な話してるの。クラウド、ちゃんと皆の話聞いてた?」
エアリスが頭を抱えながら、クラウドの肩をぽん、ぽん、と叩いた。
「俺の意見は決まっている。皆の意見を聞くほどでもない。・・・俺はセフィロスがそこで待っているというなら必ずそこへ行く」
きっぱりと宣言したクラウドを見て、女性陣は
(クラウドってはっきり言ってストーカーっぽくない?)
(うんうん。なんか怪しいよね~)
(ちょっとセフィロスにこだわりすぎだよね)
などとひそひそ話しているのだが、噂されている当の本人は全く気づかないようだった。
「とりあえず出発するぞ」
「ま、異論はないけどね」
そして、一行は神羅屋敷のあるニブルヘルムへと旅立った。

割と長く苦しい旅路の末、一行はニブルヘルムへとたどり着いた。
「やっぱり、変な感じだな。あの時燃えちゃったはずの村がちゃんとあるなんて・・・ねぇ、そう思わない?クラウド」
しんみりとティファが話し掛けるが、クラウドは「セフィロス、セフィロス」とぶつぶつと呟くだけで返事をしなかった。
「駄目だ、こりゃ」
何もかも諦め切ったような表情でため息とつくティファ。
「ん、とまぁ気を取り直して、と」
エアリスが皆を仕切りなおす。
「あのね、ここに、セフィロス、いるわけでしょ?皆でぞろぞろ行ったら罠だった場合、返り討ちにあっちゃうかもしれないよね?だから、中に入るのは一部だけにして、残りは外で待ってるっていうの、どう?」
一人一人の顔を見回しながらエアリスは切り出した。
「おう、それがいいんじゃねぇか。罠だと分かってる場所にぞろぞろ行く必要ないからな」
バレットが頷きながら答える。他のメンバーも異論はないようだ。
「ん、そう。で、中に入るメンバーだけど」
エアリスがそう言った瞬間、
「俺は絶対に行くからな」
それまでぶつぶつとセフィロスの名を呟いていたクラウドは、当然だ、という風に言った。
「ん、それは分かってる。で、あとのメンバーはどうする?」
その言葉は予想はついていたらしく、さらっと受け流すエアリス。
「クラウドが決めたらいいんじゃない?一緒に行く人なんだから」
「それもそうだね。アタシはめんどくさそうだからパス。クラウド、選ばないでよ」
ティファの提案にユフィがあくびをしながら答えを返す。皆の視線がクラウドに一瞬集中する。
「ティファとエアリス」
「一瞬で答えやがったな、お前」
「しかもその選択は前にミッドガルを出る時にやったのと同じだな」
速攻で答えたクラウドに、シドとバレットのツッコミが入る。
「じゃ、私達、ちょっと言ってくるね」
ロッドを持ち直し、エアリスは皆に軽く手を振った。
「危なくなったらPHSで連絡するから。」
ティファがチョコボストラップの付いたPHSを持ち上げてみせる。
「さぁ、早く行こうぜ」
クラウドがせかせかと歩き出した。

神羅屋敷の前に3人は来ていた。
「いつ見ても不気味な建物よね~」
「入るぞ」
クラウドが先頭に立ち、ギィッと軋むドアを開けた。かび臭い匂いが鼻をつく。
「セフィロス!!お前の望み通り来てやったぞ!!」
ロビーにクラウドの声ががんがんと響き渡る。
「ふふふ・・・待っていたぞ、クラウド」
突然、どこからか荘厳なオーケストラのバックミュージックと共に、セフィロスの声が響き渡った。
「セフィロス!!もったいぶってないで、姿を見せろ!!!」
天井に向かってクラウドは両手を突き上げ叫ぶ。
「そう怒るな、クラウドよ。そこの絵を押すと隠し階段が現れる。そこを降りて私の元まで来い」
「自分の居場所を教えるラスボスってどう思う?エアリス」
「ん~普通じゃないけどまぁいいんじゃない」
ティファとエアリスがラスボスの在り方について語っている間に、クラウドはセフィロスから教えられた隠し階段を見つけた。
「待っていろよ、セフィロス」
そう呟き、一人で行こうとする。
「ちょっと、クラウド、待ってよ」
ティファとエアリスは慌ててクラウドの後を追いかけた。

「・・・まだなの。最下層は」
ティファがいくら体力重視な格闘家でもいい加減へばってきていた。
「セーブポイントはまだなの?早く回復したいよ」
エアリスもはぁはぁと肩で息をしながら呟く。
長い長い階段を降り、モンスターとの戦闘もあり、3人がいい加減疲れてきた頃、一つの扉が見えてきた。
「あそこにセフィロスがいるんだな?」
途端に元気になり駆け出すクラウド。
「ちょっと、クラウド、どこにあんな元気が残ってたのよ?」
「いいから。私達も急ぐわよ」
立ちふさがるモンスターをばきばきと倒しながら一目散に進んでいくクラウド。
「なるほど。クラウドのすぐ後ろを付いていけば私達は苦労しないってわけね」
「そういう事。ラスボス戦へ向けて体力は温存しとかないとね」
果たして、3人は扉の前にたどり着いた。
「いいか、開けるぞ」
ごくっとのどを鳴らす一同。
ばんっ。
クラウドは一気にドアを開け放った!!
ぱぁぁっ
一瞬目の眩むような光が部屋の中にはじける。
「レディ~~~ス、アンド、ジェントルメン。本日はようこそ、我がディナーショウへ!!」
視力が回復した3人が見たものは、派手派手な衣装を身につけ、派手な(見方によってはケバイ)化粧をし、虹色のスポットライトを浴びながら、マイクを握り締めて、意気揚揚と話すセフィロスだった。
彼のいる場所は丸ステージで他の場所より2段ほど高くなっており、そのステージの前にはテーブルと椅子が並べられ、テーブルの上には皿とナイフやフォークが置いてあった。
そのテーブルの脇にはシェフとボーイが控えている。
「何を面食らった顔をしているのかな?子猫ちゃん達。さぁ、ベイベー。早く席につくんだ」
ノリノリのセフィロスのセリフに一同はのろのろとテーブルへと向かう。よく見ればテーブルの上には名札が置かれていてわざわざ席が指定されていた。おまけに「予約者様」の札まである。
ステージの方をよく見ると、上の方に「ようこそ、セフィロスディナーショウへ」の垂れ幕が見えた。
「やぁやぁ席についたようだね。諸君。ところで他のメンバーはどうしたのかな?まぁよい。この私の素晴らしいショウを見られない可哀想な奴らだ。」
ステージの上のセフィロスは、上気した表情でしゃべりまくっている。
「じゃあ、本日もはじけていこうぜ。まずは一曲目。『悪魔的紳士~時には優しく、たおやかに』!!」
セフィロスの声と同時にいつの間にか出現していたバックバンドが音楽を紡ぎだす。イントロが終わり、セフィロスが歌いだした。

~何を考えているの、と訊ねられた時、俺はこう答えたね。
たいした事ではない、君を会った日を思い出していたんだ、と~


曲が始まると同時にボーイ達がいそいそと動き出し、クラウド達のテーブルに前菜を持ってきた。
「なんか思っていたのと違うね。これって最終決戦じゃなかったの?」
エアリスがテーブルに頬杖をつきながらティファに話す。
「うん。お料理も出てきてるけど、これって食べて大丈夫なのかな・・?」
心配そうに料理の皿を見下ろすティファ。
「う~ん、そうね?ちょっと食べてみるね」
言うが早いかぱくっと前菜を口に入れるエアリス。その警戒心のなさにティファは慌てた。
「ちょっと、エアリス。毒とか入ってたらどうするの?」
「大丈夫。私、大抵の毒には耐性持ってるから。それに、食べれば、毒、入ってるかどうか分かるし」
「え・・そうなの・・・」
彼女の意外な一面を知ってティファは驚き、本当にかなわないなぁ、と思った。
「うん。なんか毒入ってないみたい。もうこうなったら、料理だけでも、ちゃんと味わおうよ。」
「そうだね。歌は変なのだしね。・・・クラウドも食べよ」
そう言ってクラウドの方を振り返ったティファが見たものは、頬を上気させ、瞳をうるうるさせながら、熱心にセフィロスの歌を聴いているクラウドだった。しかも時々「セフィロス最高!」などと歓声をあげている。
「・・・クラウドはほっとこう」
「それが一番みたいだね」
女性二人は歌を聞かずに料理を楽しむ事に決めた。

曲はどんどん進んでいき、料理もメインディッシュへと進んだ。
「ふ~結構この料理美味しいわね。さすがセフィロスお抱えのシェフね」
ナプキンで口をふきふきしながらエアリスが言った。
「本当・・私の作る料理とどっち美味しいかなぁ」
自分の店を持っている料理人としての立場から意見を述べるティファ。クラウドは相変わらず熱心にステージを見続けている。
と、いきなり、ステージ上から声が飛んだ。
「ちょっと、さっきからそこの二人、食べてばっかりじゃない。私の歌もちゃんと聴いてよぉ」
誰だお前!?とツッコミを入れながらティファとエアリスがステージを見上げると、いつの間にやらオ●マチックな衣装に着替えたセフィロスが恨みがましい視線を二人に送っていた。
仕方がないのでおざなりに二人はぱちぱちと拍手した。それを見てセフィロスは満足したようにマイクを持ち直す。
「じゃあ、次の曲いくわねぇ。『惑わせないでイノセントボーイ』!!」
曲のイントロが始まろうとした瞬間、ホール内にチョコボのテーマが鳴り響いた。

チョッコボッ チョコボ チョッコッ チョコボ チョッコボチョッコッボ~

「あ、着信着信」
ティファが慌ててPHSを取り出す。
「んもう、こういう場所ではPHSの電源は切っとくのが常識でしょう?やぁねぇ、携帯マナーなってなくて」
不満そうな顔でセフィロスが非難がましい視線をティファへと送る。それを無視してティファはPHSに出た。
「はい、もしもし」
『おう、ティファか。安心したぜ。ずっと連絡がないし出ても来ないから、電話出来ない状態なのかと思ったぜ』
PHSの向こうからバレットの声が流れてくる。
「・・・まぁある意味電話できない状態ではあったわね」
『あん?どういう意味だ?そういや後ろが騒がしいな』
「来てみれば分かるわよ。入ってすぐの所に隠し階段が出てるからそれを下って来て」
『おう、分かった。すぐ行くからな』
「何を見ても驚かないっていう心の準備をするよう皆に言っておいて」
『そんなにひどい状況なのか?』
バレットの声が心配そうな響きへと変わる。
「とにかく来れば分かるから」
それだけ言ってティファは電話を切った。
「皆もここに来るって?」
メインディッシュのお肉を小さく切り、口へと運びながらエアリスが尋ねた。
「うん。別に来なくてもいいと思うけどね。あの状態のクラウドを連れ出すのに男手があった方がいいでしょ」
ティファの視線の先では、セフィロスに熱い視線を送りながら、いつの間に手にいれたのか、『LOVE セフィロス』のロゴとセフィロスの顔写真の入ったうちわと、ペンライトを振りながら、立ち上がって、踊っているクラウドの姿があった。

それからしばらくしてたどり着いたバレット一行は目の前で繰り広げられる光景を目にし、皆固まった。
一番先に復活したユフィが料理を食べたいと言い出し、結局皆でセフィロスディナーショウを観ながらの食事となった。
皆が食べ終わるまでの間セフィロスは歌い、踊り続け、クラウドは歓声を上げ、踊り続けていた。
ディナーショウが終わった後、楽屋に寄ってセフィロスに花束を渡してくる、と言い張るクラウドをバレットがひきずって一同は神羅屋敷を後にした。

皆の心の中には、こうして消えない傷がまた一つ増えた。

2001年7月29日脱稿


《終》


7000番キリバンを踏んだマミ屋マユヲさんのリクエストで書いた話です。
セフィロスのギャグ話という事でしたが、ちゃんとギャグになったでしょうか?心配です。というかギャグ以前にセフィロス壊しすぎですね。石投げられそう。
かなりお待たせしてしまってすいませんでした。
作中に出てくる「食べてばっかりいないで歌も聴いて」というセリフは、おばさんが美川●一のディナーショウに行った時に曲を聴かずに食べてばかりいたら本当に言われたといういわく有のセリフです。
それでは、キリバンリクエストありがとうございました。こんなのでよければ貰ってください。


実に見事な領解なりっ!!!と言いたくなるセフィロスのギャグ話です。
例えば文中セフィロスの歌ってる歌がソレですが、そゆ子君が以前書かれた文脈がネタとして出てきたり、私に対するサービス精神旺盛です。
やっぱりセフィクラなのよっ!!アタシが唯一認めるホ●の世界なのよっ!!10代の輝きなのよっ!!
俺様っぷりを遺憾なく発揮したセフィロスが
「めくるめく再結合を以って歓喜と快楽の恩恵を思う存分味わうが良い!!!さぁクラウド、約束の地へいざ行かんっ!!!!」
んで。あはれ、いたいけなクラウドが
「止せっつってんだろっ!!!離せセフィロス!!ホモ!変態っうっぎゃぁあぁあぁぁ!!!!やーめーろーよー……うっ…」
竹筒に差された牡丹の花弁がポトリと落ちた。クラウドの……御免、もう終わっとく。





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